「夏でも着物を楽しみたい!」
そう思う着物好きにとって、麻の着物や浴衣はまさに救世主のような存在ですよね。カラリとした肌触り、見た目の涼やかさ。私も、夏のワードローブには麻の着物が欠かせません。
でも、皆さんも一度は思ったことがありませんか?
「『麻は涼しい』って言うけど、実際のところ、気温何度くらいまで快適なんだろう?」と。
特に近年の日本の夏は、35℃を超える猛暑日も珍しくありません。そこで今回は、長年、夏になると主に麻の着物を愛用している私の「正直な体感」を、気温別にまとめてみました。何かの参考になればうれしいです。
なぜ夏は「麻」と言われるのか
麻が涼しい理由は、主に3つの特性にあります。
1. 抜群の通気性:繊維が硬めで、生地に隙間ができやすいので、とにかく風を通します。肌と着物の間に熱がこもらず、すーっと風が抜けていく感覚は、麻ならではの快感です。
2. 優れた吸湿・速乾性:汗をかいても、すぐに吸い取って発散してくれます。汗で生地が肌にべったり張り付く、という、夏に一番避けたいあの不快感がほとんどありません。
3. 熱を逃がす力:麻は体から熱を奪って外に逃がす力(熱伝導性)が高いのだそうです。だから、触れるとひんやりと感じるんですね。
この三拍子が揃っているからこそ、麻の着物は高温多湿な日本の夏にぴったりなんですね。
浴衣もあり!でも綿は意外と暑い
夏は浴衣でしょ、という方も多くなりました。確かにいわゆる和装としては、襦袢もいりませんし、ありなシーンも増えてきたと思います。
でも、よくあるコーマ地などは汗の抜けがあまりよくないので、意外と暑く感じがちなんですよね。Tシャツなどでも汗でびっしょりになる時がありますよね。あれと同じです。襦袢はいらないといっても下着は必要ですし、実は意外と枚数は変わらないんです。
もし、着るなら綿縮や綿絽のような織りそのものが風を通すタイプのものを選ぶといいかなと思います。私は絞りの浴衣も大好きなのですが、薄手で軽く、汗で肌に張り付きがちで体のラインが出てしまうことがあるので、こちらもやはりあまり暑すぎないか、夜などにすることが多いです。
気温別!私のリアルな体感温度
さて、ここからが本題です。私の体感と、周りの着物仲間たちの声も参考に、気温別のリアルな感想をまとめてみました。
レベル1:ご機嫌ゾーン「〜30℃」
このくらいの気温なら、麻の着物は「気持ちいい」に一言です。日差しの中にいるとじりじりと暑さを感じますが、日陰に入ったり、少しでも風が吹いたりすると、その涼しさをはっきりと実感できます。電車を待つホームで吹く生ぬるい風ですら、「あ、涼しい…」と感じさせてくれるのが麻のポテンシャル。まさに「風がごちそう」になる感覚です。この気温帯なら、特に気負うことなく、快適に一日を過ごせます。
レベル2:工夫次第ゾーン「30℃〜34℃」
正直に言うと、「暑い」と感じる時間帯が増えてきます。特に、日中の屋外を長く歩くのは少し気合がいりますね。日傘を活用していても、信号待ちでは背中に汗がじんわりする感じがします。でも、このレベルなら「工夫次第で快適圏内にできるかも」というのが私の結論です。
洋服でも汗だくになる気温ですが、麻の着物なら風が抜けるおかげで、体感的には洋服より楽なこともしばしば。後述する「涼しく着るコツ」をしっかり実践すれば、我慢できないことはないかなという感じです。「やっぱり着物を着たい!」という気持ちがあれば、着てお出かけしてもいいかなと思います。
レベル3:覚悟と対策ゾーン「35℃〜」
来ました、猛暑日。この領域になると、「麻だから涼しい」という魔法はさすがに解けてきます(笑)。正直、暑いです。何を着ていても暑い。洋服でも暑い。この気温で麻の着物を着るのは、「それでも着たい」という強い意志と室内に逃げ込める機会がある時だけ。お茶会や観劇など、室内で過ごす時間がメインの予定に限ります。
涼し気に和装で歩かれている方々をたまにお見掛けしますが、着物も汗で色落ちしたりするので、やはり私にとっては「覚悟と対策」の日。でも、どうしてもなら、汗で着物が肌に張り付かないだけでも、麻を選ぶ価値は十分にあると思っています。
忘れてはいけない「湿度」という存在
忘れてはいけないのが「湿度」です。カラッとした日の32℃と、ジメジメ無風の30℃では、後者の方がずっと不快に感じます。気温の数字だけでなく、その日の湿度や風の有無も、着物を選ぶ上でとても大切な判断基準だと思います。
涼しく着るコツ5選
「工夫次第」と書きましたが、私が実践している暑さ対策を参考までにご紹介します。ちょっとしたことでも快適さが全く違いますよ。
1. 襦袢は麻が最強
着物の下の肌着こそ、夏の快適さを左右する最重要アイテム。私は麻の肌襦袢やステテコを愛用しています。汗をかいても比較的肌に張り付かないのでいい感じです。長着の素材に良いっては、ちょっと裾がさばきにくくなる気がしますが、涼しさにはかないません。
私は使ったことはないのですが、最近よく見かける冷感素材などもよさそうです。
2. 帯周りを涼しく
意外と熱がこもるのが帯周り。帯はもちろん絽や紗、麻の「夏帯」を選びます。さらに、帯枕を「ヘチマ」素材に、帯板を「メッシュ」素材に変えるだけで、お腹周りの風通しが劇的に改善されます。私は帯枕さえ使わない銀座結びが多いです。
半幅帯にしてしまうのもありですね。できるだけ体に巻き付く回数が少ないだけで涼しさは段違いです。
3. ゆるっと着付け
私はもともとしませんが、もしやるなら補正は必要最低限に。体をガチガチに固めず、風が通る隙間を意識して着付けましょう。
衣紋(えもん・首の後ろの開き)はいつもより少し多めに抜くと、首元から風が抜けて涼しく感じます。ただ下着が見えないように注意しましょうね。
4. 三種の神器は必須
「日傘」「扇子」「手ぬぐい(またはタオル)」は、夏の和装の三種の神器。とにかくあるとないでは大違いです。見た目にも涼やかなデザインのものを選べば、気分も上がります。
手ぬぐいは、胸元に入れれば補正にもなります。
5. 汗じみに気を付けて
古い長着や帯などは、藍などの自然素材で染められているものも多く、汗で色落ちすることもあります。私もお気に入りの麻の帯に藍が移ってしまって泣いたことがあります。
特に薄い色のものは危険度大。パールトーンなどの加工をしたり、少し暑いけど下に手ぬぐいをまくなど対策は万全にしましょう。
ここまで色々と書いてきましたが、私の最終的な結論は「人ぞれぞれだよね」です。
暑さの感じ方は人それぞれですし、その日の体調や予定によっても変わります。
でも、あえて目安を言うなら「34℃くらいまでは工夫次第、35℃を超えたら体調も見て少し検討してもいいかも」といったところでしょうか。
何より大切なのは、数字に縛られすぎないこと。天気予報の数字とにらめっこするよりも、ご自身の肌感覚を信じて、「今日は着たいな」「今日はやめておこうかな」と決めるのが一番じゃないかなと思います。体調だけは注意して、ゆるっと夏着物ライフ、楽しみましょうね。
これを書いた人★
洋服で飲みに行くと「あれ着物じゃないの?」といわれてしまう普段着物研究家。
ランナーでもあり、ランニングウェアと着物があれば基本の生活ができてしまう人。
沖縄独特の茶道「琉球茶道ぶくぶく茶」 の東京分室主催。
noteマガジン「ぶくぶく茶を知ろう! - 東京分室だより -」
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